光る君、すなわち紫式部が仕えた中宮彰子のサロンには、多くの高貴な出自を持つ女房たちが集っていました。彼女たちは一見して紫式部とは対立することが多かったものの、その複雑な人間関係が、紫式部の名作『源氏物語』の一部に反映されることとなります。
宮の宣旨は、彰子サロンにおける女房たちの筆頭であり、彼女の出自は第5代天皇の孫娘という極めて高貴なものでした。彼女は父・源のこれただの早世により家が一時没落しましたが、後に彰子に仕える女房として復帰。その美しさと品位で周囲から一目置かれる存在となりました。
紫式部は日記の中で、宮の宣旨を「小柄で髪が長く美しい」と絶賛する一方で、彼女の存在感に圧倒され「一緒にいると息が詰まりそう」とも記しています。紫式部と宮の戦事は互いに異なる立場でありながらも、表向きは衝突を避け、形式的な敬意を払い合う関係だったと言えるでしょう。
衛門の内侍は「日本木の三」とあだ名され、紫式部をあからさまに敵視していた女房の一人です。彼女は彰子に仕える前から一条天皇に仕える女房としてのキャリアを積んでおり、長年の経験から新参者の紫式部に対して強い反感を抱いていました。
特に、紫式部が『源氏物語』において、衛門の内侍をモデルにした「現の内侍」という老女を滑稽に描いたことが、二人の関係をさらに悪化させた原因とされています。紫式部は衛門の内侍の実力を認めつつも、感情的な衝突は避けられませんでした。
一方で、紫式部と親密な関係を築いていた女房も存在します。その一人が大納言の君です。彼女は源氏一族の出であり、道長の愛人という立場にもありましたが、紫式部とは詩を通じて深い友情を育みました。
大納言の君は紫式部が彰子サロンで孤立しがちだった時期に支えとなり、詩や手紙のやりとりを通じて互いに心の内を打ち明け合う関係でした。紫式部が彰子の出産を前に思い悩んでいた際も、大納言の君は温かい歌を返し、式部を励ましたことが記されています。
小少将の君は、大納言の君の妹であり、紫式部とは特に親しい間柄でした。彼女は内気で引っ込み思案な性格のため、紫式部は常に彼女を気遣い、その様子を心配していました。紫式部自身は胡少将の君を「心配な妹分」のように感じており、時折彼女をからかいながらも、その優しさが垣間見えるエピソードが日記に残っています。
紫式部は小少将の君が自分よりも早く亡くなったことを嘆き、彼女との手紙を見返してその死を悼む歌を残しています。小少将の君との間には深い友情があり、その関係は紫式部の人生においても重要な存在だったと言えるでしょう。
馬の中将の君は藤原家の血筋を引く高貴な女房であり、彰子に仕える前は他の貴人に仕えていました。彼女は紫式部とは対立関係にあり、その原因は単なる性格の違いだけではなく、政治的背景にも根ざしていました。
『源氏物語』の中で、紫式部は馬の中将の君を暗に揶揄するようなキャラクターを描いており、これが二人の関係をさらに悪化させたとされています。特に、源氏一族の没落を想起させる描写は、馬の中将の君にとって非常に不快だったことでしょう。
