時は久しぶりに屋敷に戻ってきた。九年三月四日、正五位に昇進した彼は、家に帰ると驚くべき知らせが待っていた。彼は妻と若妻との間に子供を授かったという話を耳にするが、同時にもう一つの影が彼の生活に暗い影を落とし始める。

藤原の定中の娘は若く、信典に比べてかなり年下だった。しかし、信典はこの若妻だけでは満足せず、さらに他にも恋人がいた。その恋人は「参院の躊条」と呼ばれる女性で、彼とは長い間、秘密の関係を続けていた。彼らの関係は表面上は隠れていたが、屋敷の中でその恋の火花は密かに燃え続けていた。

言葉に込められた不安

ある日、参院の躊条が信典にこう告げた。「あなたのお姉さまはあの有名な紫式部ですよね？もし私が間違った歌を読んだら、笑われるのではないでしょうか？」その言葉を聞いた信典は笑顔で答えた。「大丈夫です、恋文を他人に見せることはありません。誰かに見せたら酷い目に遭った人を知っているからです。

」信典の言葉は、どこか彼の心の奥底に潜む闇を反映しているように響いた。

時が経ち、信典は姉である紫式部の才能に負けじと、彼自身も何か大きな作品を生み出したいと強く思うようになっていった。しかし、その思いと裏腹に、彼の家庭や周囲の状況は複雑化し、彼は次第に追い詰められていく。

輝かしき宴の裏側

新春の祝宴が終わり、静けさが戻った頃、道長はまひろと故少将の君が心を通わせ、親しく語り合う場面を目撃する。薄い屏風で隔てられただけの簡素な局に住む二人は、笑顔を交わし合い、和やかな雰囲気が漂っていた。

しかし、道長の鋭い視線がまひろに向けられた瞬間、彼女はその視線に何かを感じた。彼女の心の奥がくすぐられるような感覚に包まれ、静かな局に妙な緊張が走る。

夜になると、故少将の君は突然、二年前に道長が壮大な儀式を行った時の話を打ち明け始めた。東の空に光が交わり、眩い光景が広がったその夜、彼女は喜びを見いだせず、逆に深い孤独を感じていたのだ。

その思いを詠んだ歌には、彼女の心の苦しみが溢れていた。

絶えぬ絆と訃報

そんな日々が続く中で、突然の訃報がまひろを襲う。コレチカ様がこの世を去り、彼女は深い悲しみに包まれた。彼の人生は権力に翻弄されるものであったが、それでもまひろは彼に深い敬意を抱いていた。彼の遺言には「どのようなことがあっても、表向きの栄光に惑わされるな。本当の幸せはそこにはない」と綴られており、それはまるで自分への戒めのようであった。

その後、藤原の道長は次女であるひよ子を新しい皇位継承者として立てる計画を進め始める。彼の策略は、次第に周囲の人々を巻き込みながら展開していった。

愛と別れの歌

信典はその後、越後の国へ向かう決意をする。しかし、その前に彼は参院の躊条に別れを告げるため、一首の和歌を詠んだ。「若き人、親の頼めければ煩うご。」彼の心の内にある複雑な思いを込めたこの歌は、彼と参院の躊条との最後の別れの印であった。

越後への旅路は決して順調ではなかった。信典は出発の前夜、突然高熱を出し、その病状は旅の途中でさらに悪化した。道長が手配した護衛や医師も、彼の病状の回復には及ばず、信典はついに三十七歳という若さでこの世を去ることとなる。

彼の死は、道長を始めとする人々に大きな影響を与えた。道長は次女を皇位に就けるための策略を着実に進めながらも、どこか虚しさを感じていた。彼は月夜に浮かぶ満月を見上げ、権力と運命に思いを巡らせた。

物語の終わりなき続き

一方、まひろは源氏物語の続きを書き続けていた。「光る君」はすでにこの世を去ったが、彼女の物語は終わらない。今度は薫と匂宮（におうのみや）の話に移ろうと、彼女の筆は止まることなく進んでいく。

道長もまた、まひろの作品に深い興味を抱き、彼女の局を頻繁に訪れるようになっていた。彼女と道長の関係は次第に噂となり、周囲の人々は二人の間に流れる恋の空気を感じ取るようになっていった。